Month: October 2018

逢魔が時 

1.まずは講師と一緒に文を読んで発音の練習していてください。読んだ後は講師から発音のアドバイスをもらいましょう。  夕暮れ時を黄昏(たそがれ)時というのは「誰ぞ彼」から来ている。古い言葉でカワタレともいい、こちらは「彼は誰」である。あれは誰かと尋ねるのは、化け物を警戒する意味も含んでいたように思うと、民俗学者の柳田国男が述べている▼恐ろしい者に出くわしやすい夕暮れには「逢魔(おうま)が時」の言い方もある。昼は人間の時間帯だが、夜の闇は化け物たちのもの。その境目で両者が遭遇しかねない。「大禍時(おおまがとき)」の字をあてるのも大きなわざわいを恐れる気持ちからだろう ▼交通の世界にも大禍時があるらしい。警察庁によると、車と歩行者の死亡事故は日没の前後に最も多く、1時間あたりで見ると昼間の4倍にのぼるという。視界が徐々に悪くなる時だ。歩行者に気づくのが遅れ、距離の感覚も鈍るという「魔」が忍び込む▼こうした死亡事故のほとんどは道路の横断中に起きている。なかでも横断歩道のないところで渡っていた例が8割近かったという。夕闇が、もともとある危険を増幅しているのかもしれない ▼信号機のない横断歩道で車がほとんど止まらない。まるで車優先と決まっているかのように。ずっと言われてきた不満である。止まらぬなら、どこでも同じだと思って渡ってしまい、事故になる。そんな悪循環が起きていないか▼〈足もとはもうまつくらや秋の暮〉草間時彦。日暮れがすっかり早くなった。冬に向かい、目立ちにくい黒っぽい服も増えていく。大禍が起こらぬよう、車も歩行者も目をこらしたい秋の暮れである。 2.講師に次の表現について説明してもらいましょう。 起こらぬ 目立ちにくい 境目 3.先学んだ文法と単語を用いて、文を作りましょう。 4.講師から発音のアドバイスを注意しながら、もう一回文を読みましょう。 5.講師と逢魔が時について話し合いましょう。

お弁当箱の余生

1.まずは講師と一緒に文を読んで発音の練習していてください。読んだ後は講師から発音のアドバイスをもらいましょう。 お弁当箱の余生  東京・上野で開催中の「BENTO おべんとう展」を楽しく見た(来月8日まで)。公家や武家用の弁当箱は趣向が凝らされ豪勢である。エチオピア製はUFOのよう、タイの弁当箱は釣り魚籠(びく)を思わせる ▼目がとまったのは、子どものころ教室でよく見たアルマイト製。梅干しの酸が原因で穴が開いている。出展した神奈川県松田町の瀬戸のぼる(のぼる)さん(74)によると、骨董(こっとう)市で探すのに2年を要したという。「穴が開けば捨てられるのが宿命。弁当箱にはふつう余生がありません」 ▼駅弁大手に長く勤めた瀬戸さんは、新商品の開発に四苦八苦する中、弁当箱の変遷に興味を抱く。40代で収集を始めた。「漆塗りの大名用など何百万円もする。値の張らない逸品に狙いを絞りました」。これまでに収集した約300点は庶民の弁当史そのもの。今回は19点を公開している▼ほかの展示コーナーも興趣が尽きない。江戸の人々は船や楼閣を模したり、ふたで囲碁を打ったり。〈よに逢坂の 関は許さじ〉。清少納言の歌をあしらった物もある。遊び心がはじける ふいに思い出したのは、筆者が米国駐在中、現地の小中学校でしばしば見た弁当の簡素さ。中身はサンドイッチと果物くらい。隙間なく詰めこまれた日本の弁当との密度の差に驚いた ▼こと弁当となると、中身も器にも凝りたくなるのが、私たちの一つの文化なのだろう。手間ひまかけて、思いをおかずに託して。大名、豪商から現代人まで古今の弁当箱に詰められた情を思った。 2.講師に次の表現について説明してもらいましょう。 骨董 詰められ あしらった 3.先学んだ文法と単語を用いて、文を作りましょう。 4.講師から発音のアドバイスを注意しながら、もう一回文を読みましょう。 5.講師と使い捨て物について話し合いましょう。

チョコとスマホ

   ポカリスエットが海外に進出し始めた頃の苦労話である。インドネシアでは当初、さっぱり売れなかったという。スポーツの後や風呂上がり、二日酔いの時などに飲もう。そんな宣伝が通用しなかったと川端基夫(もとお)著『消費大陸アジア』にある▼熱帯の気候では運動して汗を流そうと思わないし、湯につかる習慣もない。飲酒が禁じられているイスラム教徒が人口の大部分を占めている。方針を変えて「断食の後の渇きに」と売り込んだことで、受け入れられていった ▼食べ物も飲み物も暮らし方との相性がある。こちらは現代の習慣に合わなくなったか。森永製菓の「チョコフレーク」の製造が、来年夏までに終了することになった。販売が不振になった理由は、スマホだという▼チョコで手がべとついてスマホを操作しにくいのが響いたと、森永は説明する。指をなめなめという味わい方は、もう流行(はや)らないのか。周りの若い人に聞くと、ポテトチップスを割り箸で食べることもあるそうだ ▼1960年代に生まれたチョコフレークは、テレビを見ながら菓子をつまむ「ながら族」を狙った商品だった。目だけでなく指先も常に忙しい現代のながら族には、受け入れられなかったか▼思えばスマホにより退場を迫られるものは少なくない。腕時計をする人が減った。地図を持ち歩かなくなり、ついでに道も覚えなくなった。スマホが視野に入るだけで集中力が落ちるという研究もある。ものを考える力まで、はじき出されないといいが。

台風の一生 

1.まずは講師と一緒に文を読んで発音の練習していてください。読んだ後は講師から発音のアドバイスをもらいましょう。  強力な台風24号が北上している。被害が出ないよう祈るばかりである。台風と聞くと、上陸して猛威をふるう姿ばかり思い浮かぶが、専門家によると列島を悩ませる台風はすでに老境に入ったものだという▼横浜国立大学の筆保弘徳(ふでやすひろのり)准教授(42)は「生まれと育ちをみれば、老年の姿がおおむね描ける」と話す。台風のタマゴが生まれる太平洋は、東方からの貿易風と西方からの季節風が吹いている。日本にとって最もこわいのは東西の気流がぶつかる場所で生まれたタマゴだ。力強く成長し、列島を直撃する確率も高い ▼その後の勢力を左右するもう一つの大きな要素は、育ち方だ。フィリピンの東方に専門家たちが「魔の海域」と呼ぶ暖かい海がある。幼い頃にここを通ると急速に力をつける▼日本で5千人超の犠牲がでた伊勢湾台風(1959年)は気流のぶつかる場所で生まれ、魔の海域で強力になった。今月上旬の21号も同じ海域を通り、近畿地方などに大きな被害をもたらした。成育歴をより深く分析できるようになれば、コースや規模をさらに早く予測できるそうだ ▼とはいえ、ユニークな生まれ方もあるし、予想外にふるまうこともある。「いまだに謎が多いことが研究者には魅力的です」と筆保さんはいう。波瀾(はらん)万丈、行く末が見通せないのは人間と同じかもしれない▼今年は台風がいつになく多い。少なくとも10月末までは警戒が必要だろう。さらに解明が進むことを期待しつつ、まずはきょうの備えを万全にしたい。 2.講師に次の表現について説明してもらいましょう。 確率 万全 直撃 3.先学んだ文法と単語を用いて、文を作りましょう。   4.講師から発音のアドバイスを注意しながら、もう一回文を読みましょう。   5.講師と台風について話し合いましょう。

(日本語) さよなら築地市場

1.まずは講師と一緒に文を読んで発音の練習していてください。読んだ後は講師から発音のアドバイスをもらいましょう。 さよなら築地市場  「また、あちらでね」「あっちでも、よろしく」。きのうの朝、東京の築地市場を歩くと、そんな言葉が耳に入ってきた。市場が移転する先の豊洲でもお付き合いを。お得意さん同士、声をかけあっているのだろう▼そこにある物の豊富さ、多様性、並べ方の美しさ……。「世界の博物館のすべてに匹敵する」と築地を評したのは文化人類学者のレヴィ=ストロースである。あまたの魚介を見るだけで楽しいと多くの人に足を運ばせた市場も、きょう、あすのセリを残すだけになった ▼築地にある小社は、いわばお隣さんだ。原稿につまって窓を眺めると、いつも目に入るのが築地市場である。それがもうすぐ「であった」になる。まあ、うまい魚を食わせる「場外市場」がなくなるわけではないし、と思い直す▼築地市場に隣接する場外市場は商店街から始まり、今や外国からの観光客でにぎわう飲食店街だ。「築地が移っても場外は残ります」との宣伝を最初に聞いた時には意外な気がしたが、考えてみればまちとは、そんなふうに続いていくのだろう ▼本屋や出版社の集まる東京・神田にはもともと、東京大学や一橋大学などの前身があった。学生が集まれば書籍の需要があり、学校が去った後も本のまちであり続けた。築地も魚のまちとして、さらに発展するかもしれぬ▼安全をめぐる議論が続き、遅れに遅れた移転である。築地市場の通称である「魚河岸」は豊洲に引き継がれるのだろう。食を支えるプロたちの活気とともに。 2.講師に次の表現について説明してもらいましょう。 遅れに遅れた 引き継がれる 匹敵 3.先学んだ文法と単語を用いて、文を作りましょう。   4.講師から発音のアドバイスを注意しながら、もう一回文を読みましょう。   5.講師と社会発展とともに消えてゆく物について話し合いましょう。

消えるガソリンスタンド 

1.まずは講師と一緒に文を読んで発音の練習していてください。読んだ後は講師から発音のアドバイスをもらいましょう。  給油先探しにまごつくことが増えた。当てにしていたスタンドへ行ってみると閉店の貼り紙が。高速道路で「次の給油所は150キロ先です」という掲示を見て慌てたこともある▼石油流通に詳しい東洋大の小嶌正稔(こじままさとし)教授(59)によると、国内のガソリンスタンドはこの四半世紀で実に半減した。最盛期の1994年には6万軒を超えていたのが、いまや3万軒に。廃業は年に1千軒のペースに達したというから驚く ▼「マイカー離れでガソリン需要が落ち込んだ。老朽化した地下タンクの改修が義務づけられて、経営を断念する人が増えました」。今後、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)が普及すれば、従来通りのガソリン頼みの商法では立ちゆかなくなると指摘する▼かつてスタンドは各国の若者があこがれる最先端の職業だった、と教授は言う。1964年公開の仏映画「シェルブールの雨傘」でも、別れの哀(かな)しみが港町の給油所を舞台に描かれる。「日本で給油所が急増したのも同じ60年代でした」 ▼震災のたび、スタンドには長蛇の列ができる。飲料や食料と同じように燃料を確保できないとだれしも不安になる。「4時間も行列して給油した」「いまでも燃料計が半分を指すと怖くなる」。緊急時はもちろん、平常時の暮らしも給油所に支えられている▼離島や山間部では近年、給油拠点をどう維持するか試行錯誤が続く。「津々浦々にあって当たり前」という長年のガソリンスタンド観が揺さぶられる時代である。 2.講師に次の表現について説明してもらいましょう。 維持 だれしも かつて 3.先学んだ文法と単語を用いて、文を作りましょう。   4.講師から発音のアドバイスを注意しながら、もう一回文を読みましょう。   5.講師と社会発展とともに消えてゆく物について話し合いましょう。

横綱の後半生 

1.まずは講師と一緒に文を読んで発音の練習していてください。読んだ後は講師から発音のアドバイスをもらいましょう。  「猫舌なもので」と言うはずが「猫背なもので」。「コレクトコール」のつもりで「コレステロール」。筆者が子どものころ、相撲好きの間で輪島の迷語録をまねるのが流行した。土俵上の強さが圧倒的で、珍妙な言い間違えも魅力のように感じられた▼貴ノ花(故二子山親方)と同時に大関の座へ駆け上がり、「貴輪(きりん)時代」が到来すると盛り上がったころである。横綱にのぼり、5歳下の北の湖と「輪湖(りんこ)時代」を築いた。まわしは派手な金色、取り口も個性的だった。「上手を取るのが王道。下手では勝てない」という常識を覆し、左下手から強烈な投げを放った ▼派手な私生活も話題の的だった。高級外車で場所入りし、東京・銀座のクラブで湯水のようにお金を遣った。「自分の金でやったこと。何が悪いのか」と平然と語った▼まげを落としてからの姿は、時に痛々しかった。金色のパンツでプロレスのリングにのぼったり、タレント業に精を出したりしたが、その背に横綱の風格はなかった。元ファンには寂しさがぬぐえなかった ▼一代の横綱が亡くなった。享年70。晩年まで出身地の石川県を大切にした。現役時代からしばしば訪ね、子どもたちに相撲の魅力を伝えてきた。母校の小学校に土俵を寄贈し、中学では合宿で後輩を鍛えた▼苦境続きの後半生でも明るさを失うことはなかった。本紙に語った言葉が忘れがたい。「逆境という言葉は好きじゃない。人生なんてご飯と一緒。おいしい時もまずい時もあるんだからさ」 2.講師に次の表現について説明してもらいましょう。 常識を覆し 寄贈 しばしば 3.先学んだ文法と単語を用いて、文を作りましょう。   4.講師から発音のアドバイスを注意しながら、もう一回文を読みましょう。   5.講師と相撲について話し合いましょう。

秘密の減点

1.まずは講師と一緒に文を読んで発音の練習していてください。読んだ後は講師から発音のアドバイスをもらいましょう。  近代医学の学校を卒業した最初の女性。そう称されるのが、エリザベス・ブラックウェルである。19世紀に英国から米国に渡り、医学校に入学を願うが、ことごとく断られた。ある博士からは「私どものクラスの紳士たちは、異性が中に入ることを好まないからね」と言われた▼外国に行き、男性に変装して医学を学んだらどうかと言う博士すらいた。ようやく入学が認められた学校でも、歓迎されてはいなかったとベイカー著『世界最初の女性医師』にある ▼女性は医師に向かないと言われた時代があった。残念ながら、あったと過去形にしない大学が日本に存在するようだ。東京医科大の入試で、女子受験者の点数が一律に減点されていた▼女子の合格者を3割以下に抑えるため秘密裏に操作がなされた。「出産や子育てで現場を離れるケースが多く、医師不足を防ぐためだった」という大学関係者の声が本紙にある。働きにくい構造には手をつけず、女性を遠ざける。そんな行動は、この大学だけなのか ▼「ガラスの天井」といえば、女性の昇進を阻む、見えない障壁のことだ。東京医科大では、見えないゲタを男子全員にはかせていた。スタートラインにあってはならない「ガラスのゲタ」。そういえばこの大学には、官僚の息子のための特別のゲタもあったらしい▼医師となったブラックウェルは、貧しい地区に女性と子どものための診療所を開いた。門前払いのままで終わっていたなら、成し遂げられなかった功績であろう。 2.講師に次の表現について説明してもらいましょう。 成し遂げ すら 3.先学んだ文法と単語を用いて、文を作りましょう。   4.講師から発音のアドバイスを注意しながら、もう一回文を読みましょう。   5.講師とガラスの天井について話し合いましょう。

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