チョコとスマホ

 
 ポカリスエットが海外に進出し始めた頃の苦労話である。インドネシアでは当初、さっぱり売れなかったという。スポーツの後や風呂上がり、二日酔いの時などに飲もう。そんな宣伝が通用しなかったと川端基夫(もとお)著『消費大陸アジア』にある▼熱帯の気候では運動して汗を流そうと思わないし、湯につかる習慣もない。飲酒が禁じられているイスラム教徒が人口の大部分を占めている。方針を変えて「断食の後の渇きに」と売り込んだことで、受け入れられていった
▼食べ物も飲み物も暮らし方との相性がある。こちらは現代の習慣に合わなくなったか。森永製菓の「チョコフレーク」の製造が、来年夏までに終了することになった。販売が不振になった理由は、スマホだという▼チョコで手がべとついてスマホを操作しにくいのが響いたと、森永は説明する。指をなめなめという味わい方は、もう流行(はや)らないのか。周りの若い人に聞くと、ポテトチップスを割り箸で食べることもあるそうだ
▼1960年代に生まれたチョコフレークは、テレビを見ながら菓子をつまむ「ながら族」を狙った商品だった。目だけでなく指先も常に忙しい現代のながら族には、受け入れられなかったか▼思えばスマホにより退場を迫られるものは少なくない。腕時計をする人が減った。地図を持ち歩かなくなり、ついでに道も覚えなくなった。スマホが視野に入るだけで集中力が落ちるという研究もある。ものを考える力まで、はじき出されないといいが。

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